地球公転の証拠には(1)年周光行差と(2)年周視差のふたつがあります。まず最初に年周光行差から説明します。
教科書でよく説明に持ち出されるのは、「風がなく地面に垂直に雨が降っている。電車に乗っている人が電車が動き出すと、真っ直ぐに降っている雨が斜め前方から降っているように見える」、「これと同じように、真上からさす恒星の光を観測するのに望遠鏡をある角度だけ傾けなければならない」そのずれの角度が光行差で、一「年」を「周」って観測されるのが「年周光行差」-ですと説明されます。
ここでは、電車に乗らず雨の中歩く(結構速いスピードで)ことで光行差を考えます。
図-3
では雨の降って来る方向に歩いて行く-ことは出来ないので、雨の中傘をさしロケットに乗っていくことにします(図-3)。
雨の降って来る方向とロケットの進行方向=観測者の移動方向は一致、平行です。この場合、傘を傾ける必要が無いのはご覧のとおりです。
図-2、図-3から傘を傾ける必要がある(か、無いか)(光行差)は、雨の降って来る方向(恒星の方向)と観測者の移動方向(地球の公転)が大きく関係していることに気
づきます。
上の雨の中に佇んだり、雨の中を歩いたりする話から地球の公転についての話に移ります。
図-4のように、地球が静止している場合、ある星を観測すれば、望遠鏡を傾ける必要はありません。
図-3を見て、「地球が観測している星に向かって直進していく場合もあるじゃないか」という人もいるかもしれません。
救急車が近づいてくるとき「ピーポーピーポー」の音の「高さ」(大きさではない)が次第に高くなること(ドップラー効果)を経験しているはずです。もしも地球が観測している星に向かって直進していく場合があれば、救急車の音と同じように、星の色が変化して観測されるので、地球の運動が確認されます。
一方、図-5のように星を観測するのに望遠鏡をある角度だけ傾けなければならないのは、図-2で見た雨の中での歩行と同じように、地球が移動(公転)しているためです。光行差は地球公転の証拠となります。
図-4 | 図-5 |
図-6
時間を1秒に限って考えます。
まず、図-6の扇形S1・S1'・地球に着目します。時間が1秒ですから、扇形の半径は30万km、弧S1S1'は地球の公転に伴う見かけの運動で30kmと近似的に見ることが出来ます。
扇形S1・S1'・地球と半径30万kmで描いた円(周)について、弧S1S1':中心角θ=半径30万kmで描いた円周:360° 極めて小さいことが予想されるので、角度の「度」の単位を「秒」単位に変換しておきます。
30km:中心角θ=2✕3.14✕30万km:360✕60(分)✕60秒
中心角θ=30km✕3.6✕102 ✕3.6✕103 秒÷2✕3.14✕3✕105km
=20.6秒-年周光行差の最大値
(上の計算には大雑把な値を用いているため、教科書の20.5秒と異なります。 詳しくは図-8以降で説明)
しかし、「恒星からやってくる光の方向と、地球の公転運動の方向が直交する」ばかりあるわけではなく、それはまして稀であり、恒星からやってくる光の方向と地球の公転運動の方向とは任意な角度となる場合が多いはずです。
そこで地球の進行方向の斜め前方、斜め後方に恒星がある場合、地球の軌道方向(運動方向)と恒星の光の差す方向とのなす角度と関係と年周光行差がどのような関係になっているか考えて見ましょう。
図-7
弧度法(ラジアン(rad))
これまで角度を「度」で表す方法でした。扇形の弧の長さは中心角に比例することを利用したのが弧度法です。
図-6と同じように時間を1秒に限って考えます。恒星S1が地球の進行方向に対し前方θ(rad)に位置しています。地球V(km/秒)で運動(公転)しています。
もし地球が停止していれば白色の望遠鏡で恒星S1を観測できます。しかし地球は公転しているため、見かけ上恒星はS1'へ遠のくように見え、望遠鏡を∠Qだけ傾ける必要があります。
停まっている電車の窓から、斜めに雨が降っていたのが、電車が一定の速さで走っていると横殴りの雨に見えることと同じになります。
図-7の△S1・S1’・Eにおいて、正弦定理を用いると
Qが極めて小さいとき
として良いので(下図参照)
また、Sin(π-θ)=Sinθなので、
図-8
この場合は地球が停止していれば白の望遠鏡で恒星S2を観測できます。
が、地球がE'へ移動することにより恒星はS2'の位置に追いついて来たように見えます。そのため望遠鏡を角度にしてQだけ起こさなければなりません。
図-8の△S2・S2’・Eにおいて、正弦定理を用いると
図-7と同様に
ということで、2つの場合に分けて考えても、望遠鏡を傾けなくてはならない角度Qは、地球の公転方向(運動方向)と恒星の光の差す方向とのなす角度θに規制されていることが分かります。
Qの最大値は、Sin90°=1のとき最大となり、V(地球の公転速度)をC(光速)で割った値で一定です。では、その詳しい値は
Qの値はラジアンなので、これを角度の「秒」単位に換算します。 180°=π(rad)ですから、
x について解いて、
20.47秒≑20.5秒・・・年周光行差の最大値
図-9
図-9の左右のQ(rad)=v/c・sin90° の位置関係と得られた年周光行差の最大値「20.47秒≑20.5秒」は、図-6の説明とその値に一致するものとなります。
図-9から分かるように、1つの恒星について、光行差は1年を周期として、20.5秒 ~ Q=v/c・sinθ~20.5秒~Q=v/c・sinθ~20.5秒と変化することになります。
これは地球が太陽を1つの焦点とするほとんど円に近い楕円軌道を公転していることに由来する現象であり、年周光行差の最大値は20.5秒と大きく、年周視差の発見よりも早く、1727年、イギリスの ブラッドレー(James Bradley)によって報告されました。
視差とは
視差とは、ある物体を離れた場所から見たときの、視線方向の違い-です
図-10
年周視差の説明(図-10)
地球がGの位置にあったとき、比較的近い恒星Eは遠い星座(図-10では双子座の絵になっています)のEの位置にあるように見えます。
地球は公転運動を行い、半年後にはG'の位置に来ます。すると恒星Eを観測すると今度は遠い星座のE'の位置にあるように見えます。
このように、地球(太陽(天球は半径無限大で考えられているから、太陽-地球間の距離は図に表せないほど小さい))に近い恒星の見かけの位置が、一「年」を「周(めぐ)」って変化します。
とくに図-10の比較的近い恒星Eは、黄道の極(No.27 天球 図-6,図-7)に含まれているため、天球上では円を描くように観察されます。
年周視差は、「比較的地球に近い天体から地球軌道の半径を見込む角度」で0.01杪(角度)が限界。フリードリッヒ・ウイルヘルム・ベッセル(Friedrich
Wilhelm Bessel,(ドイツの数学者、天文学者) )が1838年、年周視差を発見しました。
年周視差の角度は極めて小さく、年周光行差の測定よりも遅れて発見・測定されました。
例えば、目の前にコーヒーカップがあるとして左の眼で見たときと、右の眼で見たときではコーヒーカップの見え方が異なっています。これは、左の眼と右の眼とがある距離だけ離れていることとコーヒーカップが比較的近い距離に置かれているからおきます。
もし、視力が良くて10kmも先に置かれたコーヒーカップが見えるようであれば、視線方向は交差することなく平行のまま、視差はなくなるでしょう。
地球と恒星の関係で視差を考えると次のようになります。最も地球に近い恒星は4.3光年(光の速さで4.3年かかる距離にある-ということです。太陽までは8分19秒ほどと近い。)もあれば、30億光年の距離にある銀河もあります。先の、左の眼と右の眼に当たるのは、地球の公転軌道の両端に位置したときの地球。4.3光年の距離にある恒星視線方向は1年を周期に変化して見えることなります。
図-11
① 黄道の極に含まれる恒星
図-10で説明したように黄道を中心に円軌道を描くように見えます。
② 黄道の極及び黄道面に含まれない恒星
図-11、左に示されるように、天球上では楕円を軌道を描くように見えます。
③ 黄道面に含まれる恒星
1年を周期に黄道上を往復運動するように見えます。
上の公式が如何に導かれるか説明を行いますが、公式の導出の過程を絶対理解しなければならない事項ではありません。数字が大きくなるだけで、原理は簡単です。
図-12
当HP、「No.1 地球の大きさを測る」 エラトステネスの方法、「扇形の弧の長さは、中心角に比例する」を思い出してください。
図-12に恒星、太陽、地球が描かれています。本来OSEは直角三角形(∠ESO=90°)、ES=1.5✕108kmです。ここで、太陽SをS'まで、つまりOEを半径として描いた円弧上に移動させてもOS'≓OS≓d、ES=ES'(=1.5✕108km)として差し支えはありません。
(S~S'の距離は、何光年も離れた恒星Oからすれば無視できる長さであるから)
ここで半径dで描かれた扇形(OES')と円に着目します。
①扇形(OES')において
弧'ES'(=1.5✕108km)、にたいして中心角はP(杪)
②一方、半径dで描いた円において
円の全周 2πd、にたいして中心角は360°(✕60(分)✕60(杪))
先のエラトステネスの方法、「扇形の弧の長さは、中心角に比例する」ので
弧'ES'(=1.5✕108km):P(杪)=円の全周2πd:360✕60✕60(杪)
2πd P =1.5✕108 ✕ 3.6✕102 ✕3.6✕ 103
d =1.5✕108 ✕ 3.6✕102 ✕3.6✕ 103 ÷6.28p=1.5✕ 3.62✕1013 ÷6.28p
=19.44 ✕ 1013 ÷6.28p=3.09✕ 1013km÷p
3.09✕ 1013kmを光年単位に変換するので、
光速は3✕ 105km/杪、1年は365(日)✕24(時間)✕60(分)✕60杪
=3.15✕ 107 杪、したがって光は1年間に3✕ 105 km/杪✕3.15✕ 107 杪=9.46 ✕ 1012 km 進むこととなり、
1光年の距離=9.46 ✕ 1012km
3.09✕ 1013kmを 9.46 ✕ 1012 km/光年で割って、 3.09✕ 1013 km=3.26光年
すなわち d =3.09✕ 1013km÷p=3.26÷p(光年)
年周視差が1秒(second)の時、dは3.26光年の距離となります。
そこで、3.26光年あたりの距離を1パーセカンド(1/second)とし、1PC(1PSではない)=1パーセクという単位で表します。
上の公式を使う例題
シリウス(おおいぬ座α星)(冬の季節に見られるオリオン座。三つ星が並んでありますが、三つ連なった星を東に延長していくとひときわ明るく輝く星)の年周視差Pは0.379秒である。
シリウスの距離は何光年か、何PCか?(有効数字3桁)
【解答】
d=3.26/P=3.26/0.379=8.60光年
d=1/P=1/0.379=2.64PC
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